2月23日
「絵は聖パトリックの夜に、もっとも狂気に満ちた劇的な方法で燃やされるだろう」
(フェルメールを盗んだ犯人からのメッセージ)
1974年2月23日、ロンドン市内北部、ハムステッド・ヒース公園の北端にある美術館、ケンウッド・ハウスから一点の絵画が盗まれた。扉をハンマーで壊されて侵入されたのである。
盗まれたフェルメールの「ギターを弾く女」
ロンドン北部の広大な公園の中にあるケンウッド・ハウスから
『ギターを弾く女』 53×46.3cm 1枚だけが盗まれるという事件が発生。
こちらがその舞台となったケンウッド・ハウス。
盗まれた絵とは、フェルメールの『ギターを弾く女』で13億円の値打ちがあると言われた絵画であった。
盗難犯人からの要求 「テロリストの姉妹を開放せよ」
事件発生からしばらく経って、ロンドンのラジオ局にアイルランド訛りの男性から電話が入った。
彼の要求は、ロンドンで自動車爆破テロを起こし無期懲役刑でロンドン刑務所に収監されている
IRAのテロリスト・プライス姉妹(上記写真)と他メンバー2人を祖国のアイルランドの刑務所に送り返せというものだった。
その男のグループから、カンバスの破片ほか犯人しか知りえない情報が書かれた手紙が送られてきたことで
犯人はこのグループによる犯行と断定された。
しかしイギリス政府は、人質がフェルメールの絵画であろうとも、
テロリストの返還の要求には従えるものではなく、国民の気持ちも同じだった。
また、当のIRAは絵を盗んだのは自分たちではないと否定し続けていた。
IRAのテロリスト・プライス姉妹(上記写真)と他メンバー2人を祖国のアイルランドの刑務所に送り返せというものだった。
その男のグループから、カンバスの破片ほか犯人しか知りえない情報が書かれた手紙が送られてきたことで
犯人はこのグループによる犯行と断定された。
しかしイギリス政府は、人質がフェルメールの絵画であろうとも、
テロリストの返還の要求には従えるものではなく、国民の気持ちも同じだった。
また、当のIRAは絵を盗んだのは自分たちではないと否定し続けていた。
IRAのテロリスト・プライス姉妹とは?
ドロース・プライス(姉・写真後ろ)は1951年、ベルファストのリパブリカン活動家の家に生まれる。
54年に妹のマリアン(写真前)が生まれ、2人で「プライス姉妹」と呼ばれる。
ドロースとマリアンは、1960年代終わりから70年代初めにかけての動乱の時期にIRAに入り、ユニットの他のメンバーとともに1973年にロンドンで爆弾攻撃を実行した。
70年代のイギリスはIRA過激派による無差別テロが増大していた時期。
またプライス姉妹含めの4人は祖国のアイルランド刑務所で刑期を送ることを希望し、
ハンガーストライキをしていたことも大きな社会問題になっていた最中の事件。
またプライス姉妹含めの4人は祖国のアイルランド刑務所で刑期を送ることを希望し、
ハンガーストライキをしていたことも大きな社会問題になっていた最中の事件。
プライス姉妹は、ハンガーストライキをする結果として北アイルランドに帰りたいのだと言い、
この絵をケンウッド・ハウスを訪ねて観たことのある美大生の姉ドルゥースは、
絵を無傷で返すようにと犯人グループに訴えたほどだった。
その後犯人は脅迫を更にエスカレートさせ、タイムズ紙に脅迫状を送りつける。
「絵は聖パトリックの夜に、もっとも狂気に満ちた劇的な方法で燃やされるだろう」
タイムズ紙はこの脅迫状を3月13日の一面に掲載すると同時に、
この脅迫状の内容をプライス姉妹の母に電話で伝えた時の話を掲載する。
「この絵を持っている人たちに個人的にお願いします。
もしも娘の力になりたいのなら、絵を傷つけずに返すべきです。
お願いだから、彼女たちのためにそうして下さい」
その後、17日当日になっても絵が燃やされたらしい気配はなく、
犯人からの連絡は途絶えてしまう。
新たなフェルメール盗難事件が発生
『手紙を書く婦人と召使』。
この絵はラスボロー・ハウスから、これまで2回盗難に遭っている。
1974年4月26日の夜、この作品のほか19点の絵画が盗まれた。IRAの女性活動家のほか、中核メンバーも関与していたといわれている。この絵は、犯人の逮捕により、無事に戻ってきた。
「ギターを弾く女」は見つかったのか?
このラスボロー・ハウスの事件の犯人が逮捕された翌々日、ロンドンのスコットランド・ヤードに1本の電話がかかってきた。
「市内の聖バーソロミュード教会の墓地に『ギターを弾く女』が置いてある」
結局盗んだ犯人は、見つからなかった。
美術品盗難事件を専門としたチャールズ・ヒル氏は、「なぜ教会の墓地に絵を置いたのか」という質問に、「犯人はIRAの支持者だと思っている。犯人が絵を返したのは、人々に非難されたのと、プライス姉妹が、絵を無傷で返すように犯人に訴えたからだ」と答えていた。
こうした美術品の盗難は、「誘拐」だという。毎年、60億円の美術品盗難事件が発生しており、美術品が戻る確立は10%以下と言われている。