パリの王宮チュイルリー宮殿には、有名な不吉な霊の存在が知られている。それは「チュイルリーの赤い小男」として知られ、フランス王家から恐れられていた。
宮殿に住む主だった人物の「不幸の直前」に現れる奇妙な小男らしい。
■「チュイルリー宮殿の赤い小男」の幽霊の伝説
別名「チュイルリー宮殿の赤い男」は伝説的な人物で、フランス王の居城であったチュィルリ宮に住む人々に重大事件(しかもたいてい、不吉な事件)がおきる前に、決まって姿を現すとされている。
たとえば、アンリ4世は暗殺される日の早朝に、この赤い服の男を見ていた。また、アンヌ・ドートリッシュ(ルイ14世の母)も、フロンドの乱が起こる数日前にこの男に出くわしている。
ただし、ナポレオンの言う「チュイルリーの赤い男」は幽霊というには、実体がある存在だった。
■ナポレオンと「チュイルリーの赤い男」
それから10年後の1814年1月、ナポレオンは側近の者に、誰も訪ねてこないよう言いおくと、チュイルリー宮殿の自室に引きこもった。このとき彼は、心身ともにくたくたに疲れていた。
ところがちょうどその頃、ナポレオンのもとに1人の訪問者が訪ねてきた。誰とも話す気になれなかったナポレオンは、追い返すように命じたが、側近は、「『赤い服の男だと言ってくれればわかるはずだ』と申しておりますが……」と言った。
そのとたん、あろうことか、ナポレオンの顔は蒼白になった。
側近は、かつてないナポレオンの狼狽ぶりをみて、非常に驚いてしまった。この勇敢で頭のきれる男は、これまでいかなる事態に出会っても冷静で、慌てたことはない。
そのナポレオンを、これほど慌てさせる男とは、いったい何者であろうか。側近は、急いで赤い服の男のもとへ行き、ナポレオンの部屋へ導き入れた。
赤い服の男が招き入れられたナポレオンの部屋の中からは、訪問者の威厳ある声と、ときおりナポレオンの哀願するような声が、部屋の外まで漏れ聞こえてきたという。
「君に与えられた使命を、君は果たしていない。恐怖政治を終わらせると同時に、ヨーロッパに近代化の息吹を吹き込み、封建的な社会構造を変革するために与えられた力を、君は自分の虚栄心と権力欲のために使ってしまった。自らを“皇帝”と名乗ったときから、君の堕落は決定的なものとなったのだ。
しかし、3か月だけ猶予を与えよう。その間にそれを果たすことができないなら、私は同盟国と手を結ばなければならない!」
「お願いだ、どうか私の力を奪わないでくれ!」
しばらくして、その謎の訪問者が去っていったあと、ナポレオンは自室にこもったまま数日間、だれにも目通りを許さなかったという。
そして、この赤い服の男が訪れてからわずか3か月後、ナポレオンは手中にしていた帝国を失い、地中海の孤島エルバ島に退去することになってしまったのである。
■マリー・アントワネットとフランス革命前夜
■赤い小男=サン・ジェルマン伯爵?
一説によると、この赤い男は、有名な不死の人「サンジェルマン伯爵」だとも言われている。
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もし、この「赤い男」がサン・ジェルマン伯爵だったのしたら、マリー・アントワネットの周辺にはサン・ジェルマン伯爵の影がたくさん見え隠れしていたことがわかる。
ルイ16世とマリー・アントワネットに対してサン・ジェルマン伯爵は「くれぐれも政治に注意を払わないと、そのうち大変なことになりますよ。」と警告をしたと言われる。
そしてフランス革命の少し前にマリー・アントワネットはサン・ジェルマン伯爵が差し出し人となっている手紙を受け取った。その手紙には「これが最後の警告です。民衆の要求を受け入れ、貴族たちを静め、ルイ16世は退位しなければなりません。」と書かれてあった。
アントワネットは当時、革命を起こそうとしている一派のいやがらせだろうと思い、そのまま手紙を破り捨ててしまったという。
革命当日の朝になって、マリー・アントワネットの前に現れた「赤い小男」は最後の警告にやってきたサン・ジェルマン伯爵だったのか?
果たして「チュイルリーの赤い小男」の正体とは?