10月15日
中世のアヴィラの聖女テレジア(1515~1582年)は、祈りの中で恍惚状態に至ると、たびたび「空中浮揚」を起こしたという。
空中浮揚は他の尼僧たちの面前で発生し、面白いことに彼女自身は空中浮揚を恥ずべきことと考え、何とか浮き上がらないようにと抵抗したが、その意思に反して発生し、やがて多くの人々が彼女を聖女と見なすようになったという。
■聖女アヴィラのテレサ(イエズスのテレジア)とは
ローマにおける盛期バロック美術の最高傑作の一つであると見なされている、サンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会コルナロ礼拝堂にあるベルニーニの『聖テレジアの法悦』(写真)。
そのモデルとなった聖テレジアは、16世紀にスペインのローマ・カトリック教会の神秘家であり、修道院改革に尽力した人物として知られ、カトリック教会の聖女としても知られる。
幼いころから両親から非常に信仰深く禁欲的な理想をしっかりと植え付けられていた。
テレサは聖者の生き様に魅了されており、少女時代に何度か家出をし、荒野の殉教地を探したという。
アヴィラにある御托身の修道院の中の壁(写真上)。ここで7歳のテレサは11歳の彼女の兄ロドリーゴを、アヴィラから北アフリカ、モロッコへ彼女と一緒に旅行するように説得したという。
1534年のある朝、問題児の収容施設をこっそり抜け出して、彼女はアビラにあるカルメル会の御托身女子修道院に入った。
修道院では、彼女は病気に苦しんだという。病気の初期には、崇高な宗教的恍惚感を繰り返し経験した。
ベルニーニの彫刻(写真・一番上)では気絶寸前の修道女テレジアと槍を持つ天使が配置されているが、これは天使が彼女の心臓を繰り返し激しく槍で突き刺し、前例のない、いわば霊的身体の痛みを引き起こすという彼女の見たビジョンがあらわされているという。(写真:ルーベンスによるアビラの聖テレサ)
■空中浮遊する聖女
彼女が有名なもうひとつの理由として、宗教的な恍惚状態になると「空中浮遊した」という伝説がある。
祈りの中で恍惚状態に至ると、たびたび「空中浮揚」をし、それは多くの人々によって目撃された。
ある日のミサの最中、聖餐を受けた瞬間、テレジアの身体は空中に浮き上がった。彼女は鉄格子に必死にしがみつき、「自分のような人間が聖女と見なされるようなことはさせないでください」と神に祈ったが、彼女の個人的な感情とは別に、その後も空中浮揚は続いたという。
■残された聖遺物
生前より聖性の評判が高かったので、死後、聖テレサの遺体はバラバラにされたという。みなが奇跡を願うよすがとしての聖遺物を欲しがったからだ。
死地となったアルバ・デ・トルメの修道院の教会にはV字型に硬直したままの腕がクリスタルの聖遺物入れに収められている(写真)。また心臓、さらにサン・ホセ修道院の薬指などが残されている。
心臓にいたっては、トランス状態で天使によって突き刺されたという逸話があるように、法医学者が後年に調べたところ、本当に心臓に傷跡があったといわれている。
歴史を紐解いてみるとカトリック教会の聖人のトマス・アクイナストやクペルティーノのヨセフなど、様々な聖者や修行僧について空中浮揚の逸話が伝わっている。